ヨーロッパでは過去500年で最悪の干ばつ
蛇行するエルニーニョ現象によって、日本では線状降水帯が至る所に発生して洪水が頻繁に発生しています。
降水量も常識をはるかに超えているので、堤防が決壊し、家屋の浸水が広範囲で見られています。
日本で、こんな洪水のニュースばかり見ているとにわかには信じがたいのですが、ヨーロッパはこの夏、一説には過去500年で最悪の干ばつを迎えています。
この記録的な水不足は、6月から何度もヨーロッパを襲っている熱波と相まって、各方面に多大な影響を及ぼしています。
①ヨーロッパの64%で干ばつ
欧州委員会の欧州干ばつ観測所(EDO)の8月の報告によれば、ヨーロッパの47%が土壌の水分が明らかに不足する「警告段階」にあり、17%が「要警戒段階」にあるとの事です(ロイター、8/23)。
フランスの場合、100以上の自治体で、水道から飲み水を供給できなくなったそうです(フランス・アンフォ、8/6)。
そのため多くの国・地域が取水制限を出しています。
オランダでは、いくつかの水門を閉じたり、畑の水やりを制限したりするとともに、政府は国民に洗車や庭の水やりを控え、シャワー時間を短くするようにと呼びかけています(ユーロニュース、8/6)。
同じく、イギリスでも地方によっては、庭の水やりや洗車、個人のプール使用などが禁止されました(rfi、8/13)。
農作物への影響はとくに大きく、イタリアのトスカーナ地方では、水不足の影響でオリーブの実が育たず、今年のオリーブオイルの生産量は50~60%も減少すると見られています。
また6月に政府が課した灌漑(かんがい)制限のせいで、スイカなど農作物の品質も著しく落ちています。(フランス・アンフォ、8/17)
②頻発する山火事の深刻化
水不足のせいで、今夏のヨーロッパでは夏真っ盛りの8月に、枯れ葉の舞う不思議な景色がそこここで見られています。
この乾燥は欧州で近年増えている山火事をさらに深刻なものにしています。
欧州森林火災情報システム(EFFIS)のデータによれば、8月18日の時点で、欧州全体ですでに76万1547ヘクタールの森が燃え尽きた計算だそうです。
これはスイスとベルギーを合わせた面積よりも広いそうです。
EFFISによれば、同システムが設立された2006年以来、最悪の記録の一つだそうです。(ユーロニュース、8/21)
③停滞する物流
ドナウ川、ライン川をはじめ、川や湖の水位も軒並み低下しているそうです。
なかでもライン川は、フランス、ドイツ、ベネルクスを結ぶ主要物流ラインでもあるため、その影響は経済的にも大きいそうです。
水位の低下により船の航行が難しくなり、その数は激減したそうです。
たとえば、フランスのメス港からは、毎年ドイツやベネルクスに向けて200万トン以上の穀物がモーゼル川からライン川を経て船で輸送されるのですが、今夏は収穫が終わっても送り出せない穀物が山積みになっているそうです。
稀に船が出る場合でも、川底に船体が触れないように、積めるのは900トンに限られているそうで、これは通常の3分の1以下だそうです。
足りない分を陸路で運ぶにも、船1隻の運搬量はトラック60台分に匹敵し、簡単に変更できるものではないそうです。(フランス・アンフォ、8/14)
④火力・原子力発電の問題にも
ロシアとのガス問題を契機に、火力発電に力を入れざるを得なくなっていたドイツは、石炭もライン川で運んでいます。
その一方で、ライン川の運送費は、前述の状況を受け、急激に値上がりしており、水不足はドイツの電力問題にもつながっているそうです。
発電の70%以上を原子力発電に頼るフランスでも、水不足と猛暑の影響で電力生産量の削減を余儀なくされています。
原子力発電所で冷却に用いる川の水が減少し、その温度も高すぎるためだそうです。(リベラシオン紙、8/5)
⑤魚の大量死の原因にも
水不足のもたらす川や湖の生態への影響も目に見え始めています。
先ごろポーランドとドイツの間を流れるオーデル川で、100トン以上の魚の死骸が見つかり話題になりました。
この大量死の原因はまだはっきりとわかっていないそうですが、有毒な藻類(ハプト藻)の可能性が指摘されています。
この海藻は本来ならば汽水域に繁殖するものなので、淡水のオーデル川に繁殖したということは、オーデル川の塩分が通常より高くなっていたということになります。
塩分上昇の理由はまだ解明されていないのですが、水不足と高い気温が関わっている可能性を指摘する声が上がっているそうです。(20minutes紙、8/22)
また、ロワール漁業連盟の23日の発表によれば、フランスのマブリーにある池では、11トンの魚が窒息死しているのが見つかりました。
その原因は「水不足と藻類の発生があいまった」ことだと考えられています。
つまり、繁殖した藻が夜間に大量の酸素を消費するため、水中の酸素が不足し、魚が窒息したのだそうです。(ル・パリジアン紙、8/23)
⑥牛乳不足は目前か
農作物の不作、値上がりに続き、フランスでは今後数ヶ月牛乳不足となる恐れが指摘されています。
フランスの全国農業組合連合会(FNSEA)経済委員会のフィアリップ会長の解説によれば、第一にこの時期にあるべき牧草地の草がまったく生えていないこと、第二に、乳牛に必要な飼料であるアルファルファやトウモロコシが、今年はほとんど成長していないことが原因だそうです。(ファム・アクチュエル誌、8/7)
そうでなくても、高温というストレスを受けると牛の牛乳生産量は落ちることが知られています。
加えて水不足、餌不足となると牛乳の量も質も落ちるのは当然だと思います。
飲み水となる地下水が潤沢になるには、雷雨や集中豪雨のような雨ではなく、長期間にわたる梅雨のような降雨が必要だと考えられています。
果たして今年の秋はヨーロッパに雨をもたらしてくれるのでしょうか。
私の住んでいる松山は、もともと頻繁に渇水になることでは日本でも指折りの町で、毎年のように水不足です。
上水道の半分は石手川ダムからで、あとの半分は何か所も掘っている井戸からです。
でも、松山では家庭に井戸を掘ることは可能なので、水の出る所でお金がある人は渇水対策として井戸を掘っています。
地下水の深度は、地下水があるところでも5~6mくらいです。
渇水期になると水位は1m以上下がります。
つまり、家庭用のポンプで汲み上げられるか汲み上げられないかという所まで下がってしまいます。
ここらあたりが問題なのですが、渇水対策といって井戸を掘って家庭用のポンプを設置しても、本当に渇水になった時には水が出ないということもめずらしくありません。
危機対策には余分な費用がかかることを知っていなくてはならないと思います。
ヨーロッパの危機的な状況を見聞するといろいろと考えてしまいます。
まあ、ロシアがウクライナに攻め込むとも思わなかったし、過去500年で最悪の干ばつを迎えるとも思わなかったとは思いますが。
降水量も常識をはるかに超えているので、堤防が決壊し、家屋の浸水が広範囲で見られています。
日本で、こんな洪水のニュースばかり見ているとにわかには信じがたいのですが、ヨーロッパはこの夏、一説には過去500年で最悪の干ばつを迎えています。
この記録的な水不足は、6月から何度もヨーロッパを襲っている熱波と相まって、各方面に多大な影響を及ぼしています。
①ヨーロッパの64%で干ばつ
欧州委員会の欧州干ばつ観測所(EDO)の8月の報告によれば、ヨーロッパの47%が土壌の水分が明らかに不足する「警告段階」にあり、17%が「要警戒段階」にあるとの事です(ロイター、8/23)。
フランスの場合、100以上の自治体で、水道から飲み水を供給できなくなったそうです(フランス・アンフォ、8/6)。
そのため多くの国・地域が取水制限を出しています。
オランダでは、いくつかの水門を閉じたり、畑の水やりを制限したりするとともに、政府は国民に洗車や庭の水やりを控え、シャワー時間を短くするようにと呼びかけています(ユーロニュース、8/6)。
同じく、イギリスでも地方によっては、庭の水やりや洗車、個人のプール使用などが禁止されました(rfi、8/13)。
農作物への影響はとくに大きく、イタリアのトスカーナ地方では、水不足の影響でオリーブの実が育たず、今年のオリーブオイルの生産量は50~60%も減少すると見られています。
また6月に政府が課した灌漑(かんがい)制限のせいで、スイカなど農作物の品質も著しく落ちています。(フランス・アンフォ、8/17)
②頻発する山火事の深刻化
水不足のせいで、今夏のヨーロッパでは夏真っ盛りの8月に、枯れ葉の舞う不思議な景色がそこここで見られています。
この乾燥は欧州で近年増えている山火事をさらに深刻なものにしています。
欧州森林火災情報システム(EFFIS)のデータによれば、8月18日の時点で、欧州全体ですでに76万1547ヘクタールの森が燃え尽きた計算だそうです。
これはスイスとベルギーを合わせた面積よりも広いそうです。
EFFISによれば、同システムが設立された2006年以来、最悪の記録の一つだそうです。(ユーロニュース、8/21)
③停滞する物流
ドナウ川、ライン川をはじめ、川や湖の水位も軒並み低下しているそうです。
なかでもライン川は、フランス、ドイツ、ベネルクスを結ぶ主要物流ラインでもあるため、その影響は経済的にも大きいそうです。
水位の低下により船の航行が難しくなり、その数は激減したそうです。
たとえば、フランスのメス港からは、毎年ドイツやベネルクスに向けて200万トン以上の穀物がモーゼル川からライン川を経て船で輸送されるのですが、今夏は収穫が終わっても送り出せない穀物が山積みになっているそうです。
稀に船が出る場合でも、川底に船体が触れないように、積めるのは900トンに限られているそうで、これは通常の3分の1以下だそうです。
足りない分を陸路で運ぶにも、船1隻の運搬量はトラック60台分に匹敵し、簡単に変更できるものではないそうです。(フランス・アンフォ、8/14)
④火力・原子力発電の問題にも
ロシアとのガス問題を契機に、火力発電に力を入れざるを得なくなっていたドイツは、石炭もライン川で運んでいます。
その一方で、ライン川の運送費は、前述の状況を受け、急激に値上がりしており、水不足はドイツの電力問題にもつながっているそうです。
発電の70%以上を原子力発電に頼るフランスでも、水不足と猛暑の影響で電力生産量の削減を余儀なくされています。
原子力発電所で冷却に用いる川の水が減少し、その温度も高すぎるためだそうです。(リベラシオン紙、8/5)
⑤魚の大量死の原因にも
水不足のもたらす川や湖の生態への影響も目に見え始めています。
先ごろポーランドとドイツの間を流れるオーデル川で、100トン以上の魚の死骸が見つかり話題になりました。
この大量死の原因はまだはっきりとわかっていないそうですが、有毒な藻類(ハプト藻)の可能性が指摘されています。
この海藻は本来ならば汽水域に繁殖するものなので、淡水のオーデル川に繁殖したということは、オーデル川の塩分が通常より高くなっていたということになります。
塩分上昇の理由はまだ解明されていないのですが、水不足と高い気温が関わっている可能性を指摘する声が上がっているそうです。(20minutes紙、8/22)
また、ロワール漁業連盟の23日の発表によれば、フランスのマブリーにある池では、11トンの魚が窒息死しているのが見つかりました。
その原因は「水不足と藻類の発生があいまった」ことだと考えられています。
つまり、繁殖した藻が夜間に大量の酸素を消費するため、水中の酸素が不足し、魚が窒息したのだそうです。(ル・パリジアン紙、8/23)
⑥牛乳不足は目前か
農作物の不作、値上がりに続き、フランスでは今後数ヶ月牛乳不足となる恐れが指摘されています。
フランスの全国農業組合連合会(FNSEA)経済委員会のフィアリップ会長の解説によれば、第一にこの時期にあるべき牧草地の草がまったく生えていないこと、第二に、乳牛に必要な飼料であるアルファルファやトウモロコシが、今年はほとんど成長していないことが原因だそうです。(ファム・アクチュエル誌、8/7)
そうでなくても、高温というストレスを受けると牛の牛乳生産量は落ちることが知られています。
加えて水不足、餌不足となると牛乳の量も質も落ちるのは当然だと思います。
飲み水となる地下水が潤沢になるには、雷雨や集中豪雨のような雨ではなく、長期間にわたる梅雨のような降雨が必要だと考えられています。
果たして今年の秋はヨーロッパに雨をもたらしてくれるのでしょうか。
私の住んでいる松山は、もともと頻繁に渇水になることでは日本でも指折りの町で、毎年のように水不足です。
上水道の半分は石手川ダムからで、あとの半分は何か所も掘っている井戸からです。
でも、松山では家庭に井戸を掘ることは可能なので、水の出る所でお金がある人は渇水対策として井戸を掘っています。
地下水の深度は、地下水があるところでも5~6mくらいです。
渇水期になると水位は1m以上下がります。
つまり、家庭用のポンプで汲み上げられるか汲み上げられないかという所まで下がってしまいます。
ここらあたりが問題なのですが、渇水対策といって井戸を掘って家庭用のポンプを設置しても、本当に渇水になった時には水が出ないということもめずらしくありません。
危機対策には余分な費用がかかることを知っていなくてはならないと思います。
ヨーロッパの危機的な状況を見聞するといろいろと考えてしまいます。
まあ、ロシアがウクライナに攻め込むとも思わなかったし、過去500年で最悪の干ばつを迎えるとも思わなかったとは思いますが。
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