博多駅前の陥没事故とNATM工法

今の日本の技術では考えられないような陥没事故が発生しました。

昨日の午前5時15分ごろ、福岡市博多区博多駅前2丁目の道路が陥没しました。
陥没は徐々に広がり、午前10時現在では、長さ約30m、幅約27m、深さ約15mという大規模なもので、5車線道路の交差点がそっくりそりまま陥没するという大規模なものです。
穴に流れ込んだ水が充満し、周辺ビルの敷地でも一部陥没した形跡があったそうです。

この道路陥没事故の原因ですが、これは市営地下鉄七隈線の延伸工事によるものだと判明しました。
一般には、地下鉄などのトンネルを掘る工法として3種類があります。
①矢板工法(在来工法)
主に山岳トンネルの工事に利用される施工法で古くから使われている工法です。
長所としては、発破用の穿孔機以外の特殊な機械を必要とせず汎用土木機械で施工出来ます。
そして、その気になれば人力と木材とセメントだけで施工出来るのが特徴です。
短所としては、機械化出来ない行程が多く人力に頼る場面もある為に施工期間が長くなります。
また、土圧に対してトンネル覆工の巻立のみで地下空間を支える為、必要以上に覆工巻厚が厚くなります。
②NATM工法(新オーストリアトンネル工法)
1960年代にオーストリアで提唱され日本には1980年頃より普及し始めたトンネル工法で、New Austrian Tunnelling Methodの頭文字を取り、NATM(ナトム)と呼ばれています。
長所としては、行程の殆どを機械で処理出来るので少人数で施工出来ます。
ロックボルトによる岩盤そのものの固定により覆工時の巻圧を薄く出来るのが特徴です。
各種工法との併用により、殆どの地質に対応出来る高い汎用性を持つと言われていますが、短所としては、在来方法と違い、コンクリート吹付機やロックボルトを打ち込む穿孔機、コンクリートバッチャープラント等 設備が大がかりになります。
そして、複雑な地質に対しては綿密な調査が必要になり、その都度ロックボルトの本数変更や一次覆工の厚さ更には支保工の設置や、在来工法への変更が必要になります。
③シールド工法
シールド工法は船食い虫をヒントに開発されたと言われる工法で1818年に考案され、日本では1917年に使用されています。
長所としては、掘削からセグメント組み立てまでシールドマシン内部で行われるため支保等の必要が無く、掘削して即座に崩れるような軟弱な地盤に対してもトンネルを施工する事が出来るのが特徴です。
また、発破の必要性が無い為、工事現場直上の地面に対し工事の影響が少ないのも大きな長所です。
短所としては、発進基地となる縦坑の掘削等の準備工事が必要であり、また、高価なシールドマシン等の専用機材が必要です。
シールドマシンは施工するトンネル専用に設計される為、他の工事に転用出来ず、工事終了とともに現場で解体処分されてしまいます。
これを簡単に説明しますと、
・シールド工法は、主に平地部にトンネルを掘ることが得意なのに対して、矢板工法やNATM工法は、山地部にトンネルを造ることが得意な工法です。
・シールド工法は、砂、粘土、岩盤など、すべてでトンネルを造れる工法なのに対して、矢板工法やNATM工法は、岩盤など堅い地盤にトンネルを造る工法です。
・NATM工法は、他の工法と比べてトンネルを造るスピードが速い工法です。

福岡市での掘削前に現場で実施したボーリング調査では、地下18m付近に硬い岩盤が見つかっています。
そして、地下3~5mより深い位置に地下水が流れていることもわかっていました。
この地下水の下の層は、粘土などの不透水層や砂層が岩盤まで続いていたそうで、岩盤までの深度も、18m付近ではありますが、一定ではなかったそうです。
事故現場では岩盤が硬いといった理由から、先述したように掘削機でトンネルを掘り進めながら内壁にコンクリートを吹き付ける「NATM工法」が採用されていました。
掘削の方法については、円筒状のシールドマシンで一気に掘り進める「シールド工法」も検討したようですが、岩盤が硬い箇所でトンネルの断面を一定に保ちながら掘るのは難しいと判断して、福岡市は、「NATM工法」を採用したようです。
そして、24時間態勢で工事が進められていたようです。
線路を敷く空間をつくるために固い岩盤層を削っては、崩落を防ぐためにコンクリートを吹き付ける作業の繰り返しです。
トンネルの上には水がたまりやすい砂の層もあり、これまでも掘削工事中にわずかに水がしみ出していたそうですが、想定内の量であり、ポンプで排水していたそうです。
大規模な崩落の原因は、何らかの理由で砂が混じった粘土層(不透水層)を突き抜けた地下水が招いたとみられ、水に土砂が混じりだす現象で、作業員約10人は間もなく現場から離れ、地上へつながる階段やエレベーターがある100m以上離れた「竪坑」を目指したそうです。
その直後、地鳴りとともに「ドーン」のごう音は、数十m先のカラオケ店が入るビルが揺れるほどの地響きがしたそうです。
危険を察知してから脱出まではわずか15分だったそうです。
そのあと、道路を通行止めにして、迅速に対応したので、車や人の崩落は免れました。
交通局幹部は「万全の措置をとってきたが、一番恐れる陥没の事故が起きた。深く反省している」と説明していました。
地下鉄七隈線の延伸工事は2014年2月に着工しています。
今回の現場付近の「博多駅(仮称)工区」は、大成建設など5社による共同企業体が担当し工事費は107億6千万円です。
なお、地下鉄延伸工事の総事業費は約450億円で、開業は2020年度の予定でした。

七隈線の延伸工事では、2014年10月27日に今回の現場から約400m西の福岡市博多区祇園町で車道が幅、長さ、深さのいずれも約3mにわたって陥没する事故が起きたことを受け、福岡市は対策委員会をつくって再発防止の対策を進めていたそうです。
また、2000年6月には現在は供用済みの区間の福岡市中央区薬院3丁目でも、七隈線の工事に伴って道路が幅約5m、長さ約10m、深さ7~8mにわたって陥没する事故が起きていました。
これらの事故の時の工法が「NATM工法」だったかどうかについてはわかりませんが、
・過去の陥没事故を考慮すると、安全な工法を選定すべき
・現場の地形は那珂川と御笠川に挟まれた中州であり、砂層も分布する地下水が豊富なところである
・岩盤までの深度は均一ではなく、かなり起伏があった
これを考えると、「シールド工法」の方を選択すべきだったと、結果として私は思います。
たぶん、コストが安いことと、工期が短縮できることで福岡市は、「NATM工法」を採用したと想定できますが、地質が悪いと、どんなにすばらしい技術をもってしても、自然の力にはかなわない事を実践してしまいました。

陥没したJR博多駅前の道路=2016年11月8日、福岡市博多区【時事通信社】 8日午前5時15分ごろ、福岡市博多区のJ…
道路の真ん中が、ざっくりと遮断されています。

JR博多駅前の陥没した道路=福岡市博多区

まるで、外国での陥没事故かと勘違いしたくらいものすごい陥没です。
でも、都会での陥没事故で、亡くなった方が一人もいないのは、作業員や関係者の迅速な対応だと思います。
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