鉄とマンガンの役割

私たちが飲んでいる井戸水の中には、少なからず鉄やマンガンを含んでいます。

当ブログでも、「赤い水のはなし」や「黒い水のはなし」をしましたが、鉄やマンガンを含む水は「赤い水」になったり「黒い水」になったりします。
色が出るということは、鉄やマンガンが、飲料水や生活用水としてだけでなく、各種の産業用水においても製品や配管、機器などに多大の悪影響を与えています。
このために、鉄やマンガンの地下水における含有量は厳しい数値が要求されています。
日本の水道法による水質基準では鉄0.3mg/l以下、マンガン0.05 mg/l以下となっています。
酒造用の割水や仕込用水は鉄を0.05mg/l以下にすることが要求されています。
電子工業部門では、今では古くなった4メガビットの超LSI製造用純水でも、鉄を含む総金属が2ug/l以下(ug/l=ppb=1/1000㎎/l)となっています。
これだけでなく、鉄やマンガンを含む水は異臭味があり、昔から「カナケ」や「シブ」のある水として嫌われていました。
したがって、水中の鉄やマンガンを除去することは水処理の最も基本的な技術の一つになり、日本でも江戸時代には、既に井戸水の「カナケ」抜きの方法が広く行われていたそうです。

(1)地下水中の鉄とマンガン
地下水中の鉄とマンガンは、どのような状態で存在しているのでしょうか。
1)地下水中の鉄の状態
①重炭酸第一鉄
地下水に最も多く存在するのがこの形です。、
特に深所地下水(深井戸水)には、酸素が無く遊離炭酸(炭酸ガス)が多く含まれていますから、このような条件のもとでは鉄は2価の陽イオンFe2+として存在し、重炭酸第一鉄を形成しています。
特にpH7以下の無色透明な地下水中の鉄はほとんどがこの形だそうです。
重炭酸第一鉄を多く含む無色透明の地下水を揚水して放置したり気曝したりすると、水は黄白色に濁り始めやがて褐色に変化します。
これは、地下水中の2価の鉄イオンFe2+が酸化されることにより、水酸化第二鉄が析出するからだそうです。
この変化は、まず水中の遊離炭酸が炭酸ガスとなって大気中に放出され、代わりに空気が溶け込みその中の酸素が水中に溶解することから始まります。
この結果、水中の遊離炭酸が減少し水のpHが上がります。
水のpHが高くなると、Fe2+は酸化されやすくなり、水中に溶け込んだ酸素によって容易に酸化されて三価の鉄イオンFe3+になりますが、Fe3+は中性付近ではほとんど存在せず、褐色で不溶性の水酸化第二鉄となって沈殿します。
②有機鉄やコロイド状鉄
鉄はまた、淡黄緑色から茶褐色を呈する着色水(有機着色水)中に、フミン質などの色度成分(着色有機物)と結合して溶存することがあリます。
北海道などの寒冷地の河川水や井水、本州でも深井戸水などに見られます。
このほか、コロイド状の珪酸鉄やクレー(粘土)コロイド中の酸化鉄として存在することもあります。
また、これらのコロイドに着色有機物が吸着されたものなどもあるといわれています。 
③水酸化第二鉄
主としてpH7以上の浅井戸に見られるもので、揚水したとき鉄は既に酸化しており、水酸化第二鉄の微粒子として存在します。
Fe2+と共存していることが多く、酸化鉄が0.5 ㎎/l程度以上あれば水は微黄色を呈するようになります。
2)地下水中のマンガンの状態
マンガンの場合も地下水中においては鉄と同様に二価のイオンMn2+として存在し、ほとんどの場合重炭酸マンガンMn(HCO3)2を形成しています。
マンガンは鉄に比べ酸化還元電位が高いため、Fe2+と違って中性付近のpHでは酸化されず、pHが10前後になってはじめて空気酸化が行われるようになります。
したがって、Mn2+を含む地下水を汲み上げて気曝しても、マンガンは酸化されずイオン状のままで存在します。
3)河川水中の鉄やマンガン
河川水などの表流水は大気と接していて酸素の供給が十分であり、また、遊離炭酸が失われるので鉄は容易に酸化されて水酸化第二鉄として沈殿し、一部は微粒子あるいはコロイド状の水酸化鉄となって水中に懸濁しています。
この結果、水中に残存するFe2+はほとんどなく、安定なコロイド状鉄や有機鉄として広く表流水中に存在しています。
ただし、量的には少なく0.3㎎/l前後またはそれ以下の場合が多いようです。
マンガンの場合は、前述したように河川水中ではほとんど酸化析出しないためMn2+として水中に存在します。
4)鉄、マンガンの量は変化する
自然水中の鉄、マンガンで特に注意しなければならないのは、その量の変化です。
水中の鉄・マンガンの量の変化は、季節の移り変わりや気候、揚水量などに影響され、特にダムや湖沼水、浅井戸水にその影響が多くあらわれます。
変化の大きいときなど数倍も違うことがあります。
この例としては湖水の停滞期と循環期があります。
鉄、マンガンに限らず他の水中成分についても、できるだけその変化の資料を持つことが、水処理にとって望ましいことです。

(2)人の体における鉄とマンガンの役割
今まで、鉄やマンガンは、「臭い」だの「色が出る」だのと悪影響ばっかり書きましたが、人の体には鉄やマンガンはどうしても摂る必要があることも事実です。
1)人の体における鉄の役割
①鉄の1日の摂取量
鉄は1日にどのくらい摂る必要があるのかというと、日本人の1日の鉄の必要量は成人男性で10mg、成人女性で12mg、妊娠後期や授乳中で20mgと言われています。
例えば、地下水中に鉄が1mg/l含んでいるとして、単純計算をすると成人男性では10ℓで1日の限度量になります。
鉄は60~70%は血液に、残りは肝臓や骨髄、筋肉などに存在しています。
血液が体のすみずみまで酸素を運搬したり、筋肉が収縮したり、コラーゲンを合成したりするのを助ける働きがあります。
鉄不足は貧血を招くうえ、筋力低下の原因にもなります。
②鉄の働き
鉄の働きについては次のようなものがあります。
・酸素を運搬する
体内でエネルギーを産み出すには、ほとんどの場合酸素が必要です。
酸素と結びついて、体内のあらゆるところに酸素を運ぶ役割をするのが、血液の赤い色素成分であるヘモグロビンです。
鉄はヘモグロビンの材料となっているため、鉄が不足すると、血液中のヘモグロビンの量や、赤血球の数が減ってしまいます。
これを鉄欠乏性貧血といいます。
貧血になると、体内に十分な酸素を送れなくなるため、産み出せるエネルギーの量が低下し、集中力低下や頭痛、めまい、倦怠感といった症状が表れます。
・筋肉を収縮させる
鉄は、筋肉の赤い色素成分であるミオグロビンの材料でもあります。
ミオグロビンが血液中の酸素を細胞内に取り込むことによって、筋肉が収縮します。
鉄が不足すると酸素をうまく取り込めず、筋力低下や疲労感といった症状が表れます。
・体内のさまざまな代謝にかかわる
鉄はいろいろな酵素を活性化したり、酵素の構成成分になったりして、エネルギー産生、神経伝達、コラーゲンの合成などにかかわっています。
・貯蔵鉄として貯蔵される
使われなかった鉄は貯蔵鉄であるフェリチンに変えられ、蓄えられます。
体内の鉄が足りなくなると、フェリチンが分解されてヘモグロビンやミオグロビンの材料になります。
そのため一時的な鉄不足があっても、すぐにその兆候が出ることはありません。
しかし不足状態が長く続くとやがて貯蔵鉄も枯渇し、貧血やその他の欠乏症状が表れます。
③鉄が不足すると
鉄が不足すると、貧血、倦怠感、疲労感、イライラ感、集中力低下、筋力低下、口内炎、爪の異常などの症状が出るといわれています。
特に疲労感は鉄不足の症状のひとつで、鉄不足によって貧血が起きているかどうかの判断としては次のようなものがあります。
・立ちくらみを起こす。
・かぜをひいたときなどに真っ赤に充血する目の結膜の下の部分が白くなっている。
・手のツメに横線が入ったり、爪全体がスプーン状に変形する。
・顔色がすぐれない。
・白髪が増える。
なんとも気になる症状です。
日本人の1日の鉄の必要量は先に述べましたが、健康な人が日常的に摂っている鉄量から出した数字で、科学的な裏付けはないそうです。
特に鉄欠乏性貧血の患者さんはもともと鉄の吸収が悪いか、出血によって鉄を失う量が多いケースがほとんどです。
そのため食事で必要量の鉄を摂っても貧血が改善されず、100mg前後の鉄を鉄剤で補給する必要があります。
授乳期の赤ちゃんでは、母乳の代わりに牛乳を与え続けたために「牛乳性貧血」を起こすこともあります。
母乳には鉄が含まれていますが、牛乳の場合、カルシウムは多くても鉄となると意外に含有量が少なく、「牛乳は完全食品」などと過信すると鉄不足を起こすのです。
40代以降の女性の場合、骨粗鬆症の予防のために牛乳を多量に飲んでカロリー過多になり、カルシウム以外の鉄などの栄養素が不足するケースもみられます。
④鉄を摂りすぎると
逆に鉄を摂りすぎことにより起こる症状もあります。
皮膚の色素沈着、肝障害、亜鉛やマンガンなど他のミネラルの吸収阻害などです。
普通の食事をしていれば過剰症の心配はないと言われていますが、地下水に鉄が多量に含有していたり、サプリメントで、記載されている摂取目安量以上を長期服用すると過剰症がみられることもあります。
⑤鉄を上手に摂るには
鉄を上手に摂るには、鉄とともにビタミンB2、B6、B12とマグネシウムを摂ることだそうです。
鉄が効果的に働くためには、鉄と一緒にいろいろな栄養素をまんべんなく摂ることなのだそうです。
また、鉄の吸収が悪かったり出血によって貧血が起こっている場合は、鉄剤によって確実に鉄を補給することが大切だそうです。
⑥鉄を多く含む食品
レバー、かき(牡蛎)、あさり、かつお、いわし、肉の赤身、がんもどき、納豆、ひじき、小松菜、そばなどがあります。
2)人の体におけるマンガンの役割
鉄は体内に必要だけどマンガンは毒だと思っている人は多いのかも知れません。
でも、マンガンだって鉄と同様に必要な要素です。
①マンガンの働き
マンガンは体内の組織や臓器に広く存在し、いろいろな酵素の構成成分になったり、酵素を活性化したりして、結合組織の合成や酸化防止などをはじめとする、体内の代謝に広くかかわっています。
動物性食品に少なく、植物性食品に多い栄養素ですが、いろいろな食品に含まれているため、通常の食生活をしていれば不足する心配はありません。
しかし、もし不足した場合は、骨格の異常、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、生殖能力の異常、肌荒れなどが起こりやすくなるほか、代謝が悪くなって、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を引き起こす原因になります。
成長期の子どもでは、発育不良になる可能性があります。
・骨や皮膚の形成にかかわる
酵素反応での関与の一つである骨形成ですが、さらに詳しく言うと、マンガンは骨の成分であるリン酸カルシウムの形成を促進させる働きがあり、マンガンは、骨、軟骨、関節液、皮膚などの結合組織の合成や、骨へのミネラルの沈着を助けます。
そのため骨や皮膚の健康を保つのに重要な栄養素です。
・インスリンの合成にかかわる
マンガンは血糖を調節するホルモンである、インスリンの合成にかかわっています。
そのためマンガン不足は糖尿病につながる恐れがあります。
・神経の機能を正常に保つ
マンガンは、神経細胞間で情報を伝える神経伝達のコントロールに必要です。
その一方、摂りすぎると脳にとっては毒となり、からだを動かすことができなくなったり、思考力が低下したりといった中枢神経の障害が引き起こされます。
・体内を酸化から守る
活性酸素は身体にとって必要なものですが、過剰に発生してしまうと細胞を酸化させて傷つけます。
これが老化やガンの原因といわれています。
また活性酸素は悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を酸化させ、血管壁に沈着させて血管を傷つける作用もあります。
これは動脈硬化や心筋梗塞といった生活習慣病を引き起こす原因となります。
マンガンは活性酸素を抑える抗酸化酵素の構成成分となり、活性酸素による害を減らすのに役立ちます。
・体内のさまざまな代謝にかかわる
マンガンは各種酵素を活性化させたり、酵素の構成成分となったりして、生殖能、成長、脂質代謝、血液凝固因子の合成などにかかわっています。
カルシウムとともに、月経前症候群のうつやイライラ感の軽減に使われることもあります。
マンガンは人間の体内には12~20mgと少量しか存在しません。
そのうちの25%は骨中に、ついで肝臓、すい臓、腎臓に多く含まれます。
マンガンは胃液でマンガンイオンに変えられ、小腸で吸収されたあと、肝臓へと運ばれ、その大部分は胆液や膵液として、再び消化管へと排出されます。
したがってマンガンの糞中排出量というのは摂取量とほぼ等しくなります。
②マンガンが不足すると
マンガンは多くの生化学反応と関係しているため、不足すると、
・骨形成(骨格異常、骨粗鬆症、発育不良)
・血液凝固能
・糖質、脂質の代謝
・生殖機能の低下
・皮膚の代謝肌荒れ、
・運動機能
などに影響が出てくると言われています。
マンガンの吸収率は、食事に含まれるカルシウムや鉄の量と反比例します。
ですから病気の治療など特別な目的がある場合を除き、カルシウムや鉄だけが強化された食品やサプリメントにかたよった食生活は、マンガン不足を招く可能性があります。
③マンガンを摂りすぎると
マンガンを摂りすぎると、
・精神障害
・中枢神経系障害・
・生殖能力の低下
・免疫力の低下
・腎炎、膵炎、肝障害
などに影響が出てくると言われています。
普通の食事をしていれば過剰症の心配はないと言われていますが、地下水にマンガンが多量に含有していたり、サプリメントで、記載されている摂取目安量以上を長期服用すると過剰症がみられることもあります。
④マンガンを多く含む食品
ナッツ、栗、れんこん、大豆製品(油揚げ、納豆、凍り豆腐など)、玉露、全粒粉、玄米などがあります。

(3)飲料水としての鉄、マンガンは害?
鉄やマンガンは、不足してもいけないし、摂りすぎてもいけないことは症状より確認できたと思います。
しつこく言いますが、鉄、マンガンはいずれも 生命を維持する上で必須元素です。
人間の毎日の最低必要量は、年齢、体重によりますが、鉄が7~48mg、マンガンは4mgといわれています。
ただし、この量は、毎日の食品から摂取していることがほとんどです。
飲料水だけでは摂取するのは大変ですが、それよりも、鉄、マンガンを多く含んだ水は、食品と合計すると過剰摂取になる可能性が大きいと思います。
飲料水の鉄、マンガンは、健康面だけでなく、飲み水に色がつく、味が悪くなるという「生活上支障関連項目」として基準値が決められています。
色がついたり、味の悪い水を、健康に害はないといわれても飲む気にはなれないのもまた事実です。
昔から除鉄や、除マンガンは行われていました。
高度の水処理技術が確立されている現在でも、解決が困難な問題が時折見受けられます。
これは、水中の鉄とマンガンが、その環境によっていろいろと変わった形をとることに起因しています。
除鉄、除マンガンには、この方法だけという画一的な方法はまだありません。
地下水中の鉄、マンガンの状態によって、初歩的な水処理の技術で簡単に除去できるものから、相当な技術と経験をもってしても手こずる難しいものまであり、いくつかの水処理技術が組み合わされて使用されているのが現状です。
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