弘法大師のことわざと弘法水

「弘法大師」のことわざと弘法水について調べてみました。

(1)弘法大師とは
「弘法大師」とは、真言宗の開祖として有名な空海のことです。
延喜21年(921年)10月27日、東寺長者観賢の奏上により、醍醐天皇から「弘法大師」の諡号が贈られたそうです。
現代においても、「弘法大師」は空海を越え、千年の時を越え、普遍化したイメージでもあります。
そして、歴史上、天皇から下賜された大師号は27名もいるそうですが、一般的に大師といえばほとんどの場合「弘法大師」を指しています。
極端に言えば、空海を知らなくても「弘法さん」「お大師さん」はほとんどの人が知っています。
「弘法大師」の略年表は下記のようです。
774年(宝亀5年)讃岐の国(香川県)生
794~803年の間行方不明
804年に最澄と共に遣唐船で入唐
806年帰国
806~809年の間行方不明
809年嵯峨天皇の時上京が許され、高尾山寺に入る
810年薬子の変が起こり、空海は鎮護国家のための大祈祷を行う
816年帝より高野山を賜り開祖に着手 821年5月,故郷四国讃岐の満濃池の修築
835年3月21日入定
921年朝廷より「弘法大師」の諡号

(2)弘法大師のことわざ
「弘法も筆の誤り」ということわざがあります。
これは、どんなベテランでも間違うことがあるという意味のことわざですが、これにはもとになった逸話があるそうです。
「弘法大師」は、平安時代のすぐれた書道家「三筆」の一人でもあったそうです。
ある時、「弘法大師」は天皇から宮中諸門の額の字を書くよう勅命を受け、「応天門」と書いた額を掲げました。
ところが掛け終わって下から額を見ると、「応」の1画目の点が抜けていました。
額は相当高い場所にかけてあるため、下ろすのは無理で、登って書くこともできなかったそうです。
でも、「弘法大師」は少しもあわてず、墨をつけた筆を下から投げたそうです。
それが見事に「応」の1画目の位置に命中し、立派な点が打たれたことで、居合わせた全員が弘法大師の神業に感心したそうです。
これは『今昔物語』に出てくる話で、本来は字を書き損じたことではなく、どんな状況でも完璧な文字を書く弘法大師の素晴らしさを伝えるものだったようです。
また、「弘法筆を選ばず」もあります。
本当に才能のある人は道具の優劣に関係なく力を発揮するという意味ですが、こちらはもとになる逸話はありません。
「弘法大師ならどんな筆でも立派な文字を書くはず」と後世の人が考え、ことわざにしたようです。
「大師は弘法に奪われ、太閤は秀吉に奪わる」もあります。
大師といえば、「弘法大師」で、太閤といえば豊臣秀吉をイメージします。
先に述べたように、大師というのは朝廷から高僧に与えられた称号なので、「弘法大師」以外にも何人もいるのですが、「弘法大師」のイメージがあまりにも強いため、現代では「お大師さん」といえば、「弘法大師」と多くの方が認識されています。
同じように、太閤も摂政・太政大臣に対する敬称で、これも何人もいるわけですが、誰もが慣れ親しんでいる太閤は豊臣秀吉だと思います。
つまり、このことわざは、大師も太閤も特定の個人を表す尊称ではないものであるのに、庶民の敬い慕う人気が、一般の尊称を特定の人を指すものにしてしまったことなのです。

(3)弘法大師の水にまつわる伝説
さて、前置きが長くなりましたが、「弘法大師」には水にまつわる伝説がたくさんあります。
「弘法大師」にまつわる伝説は全国に5000以上あると言われていますが、その中で、水に関するものだけでも1600以上あると言われています。
典型的な「弘法大師」の伝説の水は次のような話が多いようです。
①喉が乾いた大師が水を所望し、老婆が遠方から水を運んで快く水を提供したので、水に不自由なこの土地に同情し、御礼に杖で地を突いて水を出す
②塩の入手に難儀していることに同情し、塩水井戸を湧かす
③土地を荒らす竜を閉じこめ、竜が悔い改めて水を湧出させた
④料理されそうになっている鮒を助けたところ片目の鮒になった
⑤盲目の老婆に水をもらい、御礼に眼病に効く水を湧出させた
⑥水を惜しんだ老婆が、嘘を言って大師を追い返すと、湧水や井戸が白濁したり、涸れてしまって水に苦しむことになる
これらの弘法水は、これまでの調査で日本全国に1,400ヶ所ほど存在していることを確認しているそうです。
その名称には次のようなものがあります。
弘法水,弘法清水,弘法井戸,大師の水,清水大師,御水大師 杖突水,御杖の水,杖立清水,独鈷水,金剛水(遍照金剛),塩井戸(水湧出) 加持水(加持祈祷による),閼伽水(聖なる水),硯水(すずりみず,書道)

(4)弘法水の分布と水文学的特徴
下記に、各都道府県の弘法水伝説数を調べていますが、弘法水の分布は日本海側と東海地方が少なくなっています。
北海道と沖縄は伝説そのものがありませんが、遠くて行けなかったのでしょうか?
県別にみると岩手県,福島県,群馬県,長野県,石川県,奈良県,和歌山県,香川県に多く、伝説や民話の多い地域に数多くみられるのが特徴です。
また、平地には弘法水はほとんど見られず、丘陵地や山中の谷頭や地形の変換点、山頂などに多く見られます。
私は、四国に住んでいますから、弘法水は四国ばかりと思っていたのですが、全国にこんなにもあるのが驚きです。
香川県は生まれ故郷なので多いのはわかっていましたが、ものすごく多いと思っていた愛媛県が、全国では少ないほうの県に入っているとは思いませんでした。
現地調査から、弘法水の湧出量はほとんどが1l/sec以下であり、その半分以上は0.1l/secのごく小さな湧水であることがわかっています。
これら小規模の湧水が1,200年まえから現在に至るまで湧出しているとは考えにくいことで、水文学的には非常に興味ある湧水と言えます。
尚、いくつかの弘法水では、潮汐に感応して湧出量や井戸の水位が変化するものがあります。

(5)弘法水の水質異常
弘法水には,変わった水質(例えば,塩水井戸,白濁した水等)のものが知られています。
例えば火山や石灰岩地域ではないにもかかわらず、pHが高かったり、極端に低い例が見つかりました。
また、無機主要成分にも異常な値を示す弘法水が多く、特にカルシウム,硫酸,硝酸濃度の高いものが多く見いだされました。
聞き取り調査ではゲルマニウムやホウ酸が溶けているといわれる弘法水もありました。
これらの弘法水の中には薬水として利用されているものが多くみられます。
最も典型的な例は、pHが低く硝酸イオン濃度の高い弘法水が眼病に効くと言われています。
弘法水の効能,利用法には次のようなものがあります。
眼病・胃腸病・皮膚病・疣取り・火傷・万病・健康増進・不老長寿・安産・書道(硯水)・茶の湯・仕込み水(酒・味噌・醤油)・紙漉き・水虫・害虫駆除などです。

(6)伝説の水に登場する人物
様々な伝説全集や郷土資料等から伝説の水と呼ばれているものは、弘法水が圧倒的に多く、伝説の水の半分、登場する人物の3分の1を占めているそうです。
2番目に多い安倍晴明(陰陽師)でさえ70ヶ所しかないそうです。
以降では、歴代天皇(約20ヶ所)や蓮如(10ヶ所)を始めとして歴史上の有名な人物が上位を占めています。
また、弘法水が日本全国で見られるのに対して、他の伝説の水は,その人物の活躍した狭い地域内でしかみられない場合が多いようです。

(7)弘法水とは
弘法水は、大師自身が掘当てた水と考えるよりは、水量はわずかながらも水の乏しい地域に数百年もの間変わらずに湧出し続け、淘汰された湧水・井戸水と考えるべきだと思います。
そして、無数の湧水,地下水の中で特殊な水質を持ち合わせ、疾病(特に眼病・皮膚病)や健康増進,その他の水として利用できたものは、当時の衛生状態や医療技術レベルから薬水・霊水として用いられるようになり、それが水神信仰とつながって弘法水となったと思われます。
これらを合わせて考えると弘法水の本質とは鉱泉・温泉であると考えられます.
伝説の水は、その登場人物と深く関わって、その用途や水質,水文学的な特徴の見られることがわかってきました。
その中で、弘法水は日本を代表する伝説の水であり、敬うべきものだと思います。

(8)各都道府県の弘法水伝説数(2003.6.19 現在)
奈良県 139
和歌山県 134
群馬県 95
香川県 66
石川県 56
長野県 53
山形県 43
福島県 41
新潟県 37
大阪府 36
徳島県 35
広島県 35
三重県 35
京都府 35
岡山県 34
茨城県 32
高知県 30
岩手県 29
栃木県 29
愛知県 28
愛媛県 27
富山県 27
滋賀県 25
大分県 25
福井県 23
千葉県 23
兵庫県 22
神奈川県 22
山梨県 19
宮城県 19
熊本県 18
静岡県 15
東京都 15
埼玉県 15
鹿児島県 14
山口県 9
岐阜県 8
長崎県 8
島根県 8
秋田県 6
福岡県 6
青森県 5
佐賀県 3
鳥取県 3
宮崎県 2
北海道 0
沖縄県 0
合計 1389
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