梶谷鼻の片状石灰岩とオリストリス

愛媛県伊方町に梶谷鼻という名勝があります。

梶谷鼻(かじやばな)は、佐田岬半島の中央よりは半島寄りで、旧三崎町の南側にあります。
佐田岬メロディーラインの名取トンネル手前の右側の側道を入って、名取地区のはずれにあります。
ここは、県立自然公園に含まれていますが、この梶谷鼻とここから約2.5km南東に下った小梶谷鼻との間には、厚さ約150mと推定される片状石灰岩があります。

佐田岬半島は、地質帯としては、古生代後期~中生代中期の三波川変成帯が分布しています。
この三波川変成帯は、日本最大の広域変成帯であり、関東山地にはじまり、中央構造線の外帯に接して、中部地方天竜川地域から紀伊半島、そして四国を経て九州佐賀関半島までの最大幅30kmで、延長800km以上にわたっています。
主な基盤岩は、低温高圧型の変成岩である黒色片岩(泥岩,砂岩に由来)や緑色片岩(玄武岩に由来)です。
佐田岬半島でも、ほとんどは緑色片岩で、梶谷鼻の片状石灰岩や変斑レイ岩、それに玄武岩や黒色片岩が露頭に見られるのは、名取地区から大佐田地区にかけてのほんの一部だけです。

1970年代にプレートテクトニクスが登場し、それが日本でも受け入れられるようになると、日本列島の形成に「付加体」と言う概念が導入されました。
つまり、海洋プレートと大陸プレートがぶつかる場所の一つである海溝では、海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込みます。
この沈み込むときに、海洋プレート上の堆積物(深い海の堆積物)が、大陸プレート側から運搬された陸地起源の砂や泥など(浅い海の堆積物)と入り混じって大陸側に押し付けられ、プレートが沈み込むにしたがってそれらが次々と大陸プレートにくっつきます。
これを「付加する」と言い、その堆積物を「付加体」と呼んでいます。
この考え方だと、「付加体」には、海洋起源の深海堆積物と大陸起源の浅海堆積物の両方が入り混じっていることになります。
深海堆積物には、
①深度4,000m以上の深海に堆積したチャート(ほとんどが放散虫と呼ばれるプランクトン起源)
②海山起源の玄武岩質火山岩やサンゴ礁石灰岩
③中央海嶺などで噴出した玄武岩火山岩や上部マントル物質の橄欖岩
などがあり
浅海堆積物には、
水成岩である泥岩,砂岩,礫岩などがあります。
中央構造線よりも太平洋側の地層は東西方向に帯状に伸び、北から三波川帯,秩父帯,四万十帯と呼ばれていますが、これらは南ほど時代が新しい「付加体」となります。
佐田岬を構成する三波川帯は、これでいくと一番古い「付加体」となります。
梶谷鼻では、佐田岬のほとんどの場所で見られる緑色片岩はなく、片状石灰岩や変斑レイ岩、それに、御荷鉾帯でよく見られる玄武岩や黒色片岩も付近に出現しています。
つまり、別のところの岩塊がこの名取地区周辺に入り込んできたと考えられ、これを「オリストリス」と呼んでいます。
「オリストリス」(異地性岩塊)とは、地層が海底地すべり等によって遠方に移動し再び堆積したときその移動はゆっくりと長期間にわたり行われるため、最終的に落ち着いたときにはその直下の地層よりも古いものになってしまう事があり、このような堆積層を「オリストストローム」と言い、この中に含まれている巨大な外来岩塊を「オリストリス」と呼んでいます。
「付加体」ではよくあることだそうで、この大きさは長径数kmにも及ぶことがあり、巨大さのために本来の地層と間違い、その中に含まれている化石の時代と、本来の地層の時代とが合わなくなって混乱を引き起こす事もあると聞いています。

石灰岩が海岸に露出しているのは、日本では、梶谷鼻の他には、紀伊半島の白崎石灰岩,三陸海岸の大理石海岸の2ヶ所があるだけだそうです。
梶谷鼻の片状石灰岩は、方解石の集合から成り、白色∼灰白色細粒結晶質です。
縞状~片状を呈しており、しばしば剥離性があって、板状に割れやすいのが特徴です。
昔は大理石を産出し装飾用建材として利用された時代もありました。
これと、付近一帯は、ウバメガシの群生地でもあり、美しい自然の景観に魅了されます。

 
梶谷鼻です。
断崖絶壁の、片状石灰岩の露頭と、転々と浮かんでいる白波の岩礁です。
人の力が多少は加わった小道があり、海岸まで下りることができました。
但し、山に慣れていない人にはとても危険な小道です。
地質に携わっている私にとっては、片状石灰岩は感動ものでしたが、普通の遊歩道に
慣れている人にはお勧めできません。

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名取トンネル付近から撮った梶谷鼻です。
ここで写真を撮っている時には、海岸まで下りられるか不安でした。

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ここから歩きました。
車でも入れるのですが、みかん農家の私道みたいで、鉄柵が設置していました。
但し、ここ近年は鉄柵を閉じている様子はないようでした。

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車で来れるのはここまでです。
キャリーの左側から、稜線沿いに人の歩いている小道が見つかりました。
ここから下りてみます。

13-IMGP1194.jpg
このような小道です。
亜熱帯性の樹木(ウバメガシ)と、しだの繁茂した群れに囲まれて下りて行きました。
 手摺りは全くありませんでした。

12-IMGP1191.jpg
見通しが利く場所に出ました。
ここから先に行けるのか不安でした。

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この少し急な岩盤の露頭を下りると海岸です。

06-IMGP1151.jpg
海岸へ下りて、右側を見ると片状石灰岩の露頭が見えます。
高さ30mもある切り立った崖です。
地質図で確認すると、この片状石灰岩の壁が、小梶谷鼻まで2.5kmは続いている
と思われます。

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片状石灰岩や片斑レイ岩から構成されている基盤岩の緩斜面です。
層理面が、緩い流れ盤構造なので、斜面も緩くなります。
岩盤の亀裂の隙間から、ツワブキの花も咲いていました。

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山の頂上などでよく見られる、祠みたいなものが祭っていました。
海神様なのかも知れません。


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梶谷鼻の、地質の特徴である片状構造です。
少し緑っぽいのが変斑レイ岩で、白っぽいのが片状石灰岩です。
層状なので、サンドイッチみたいになっています。
板状に割れやすいのが片状石灰岩の特徴ですが、まさにその通りです。

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この石灰岩は、片状構造はあまり顕著ではなく、少しピンクがかって結晶質です。
私の見解では、片状石灰岩は、石灰質片岩とほぼ同じだと思っています。
つまり、どちらも変成した泥質石灰岩で、通常は粒状である方解石が伸びた形
または平らな形に再結晶したもので、このため片状構造を持つ岩石となっています。

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片状石灰岩の上に変斑レイ岩が乗っかっている状態での露頭です。

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片状石灰岩のクローズアップです。
結晶質で綺麗です。
緑色片岩のレンズや薄層を挟んでいます。
昔は、装飾石材として利用されていたそうです。

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片状石灰岩の真ん中が、四角の空洞になっていました。
層理面がほぼフラットで、節理面が多いため、空洞ができるのも納得できます。

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断層が顕著に見られます。
風化した茶色の岩盤が目印になり、ずれている状態がよくわかります。

15-IMGP1200.jpg
遠くに見えるのが小梶谷鼻です。
海岸の海食崖は、片状石灰岩の露頭がほとんどだそうです。
少し凹んで谷地形になっているところが黒碆です。

地図-梶谷鼻 
梶谷鼻付近の地形図に、今回のルートを入れました。
赤い実線が自動車が通るルートで、緑色の点線が小道です。
足腰の丈夫な人で、地質に興味のある方は、ぜひ行ってみてください。
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