死海の現状と導水路計画

死海の現状について調べてみました。

(1)死海の出来るまで
死海(The Dead Sea)は、アラビア半島北西部、ヨルダンとイスラエル両国にまたがる非常に塩分の高い湖で、地球上で最も低い場所でもあります。
死海は、東アフリカを分断する大地溝帯が紅海からアカバ湾を通ってトルコに延びる断層のほぼ北端に位置しています。
死海を含むヨルダン渓谷は、中生代白亜紀以前にはまだ海であったと推定されています。
その後の海底隆起により、パレスチナ付近の高原が形成されると同時に、ヨルダン渓谷付近に断層が生じたと考えられています。
この断層の西側はアフリカプレートで、東側はアラビアプレートです。
アフリカプレートがアラビアプレートを圧縮したことにより、断層を挟んで、アラビアプレートが北へ動いたと推定されています。
 
(2)死海の濃度
死海の水源は、ヨルダン川と他に6つの川が流入しています。
年間降水量は50mmから100mmと極端に少なく、気温は夏が32℃~39℃、冬でも20℃~23℃と非常に高いため、湖水に流入する水量よりも蒸発する水量のほうが大きくなり、高い塩分濃度が生まれました。
海水の塩分濃度が約3%であるのに対し、死海の湖水は約30%の濃度を有しています。
1リットルあたりの塩分量は230gから270gで、湖底では428gもあります。
この濃い塩分濃度のため、湖水の比重が大きくなり、結果、浮力も大きいので、人が死海に入って沈むことは極めて困難となります。
このような状態なので、生物の生息には不向きな環境であるため、湧水の発生する所を除き、魚類の生息は確認されていません。

(3)死海の水位低下の現状
死海の湖面標高は年々低下しています。
過去50年にわたって水位は30mほども下がっています。
最近ではその低下が加速しており、平均して1年に1.2mも下がっています。
それに伴って、表面積も過去100年でおよそ3分の1に縮小しています。
死海は砂漠地域にありますが、かつてはヨルダン川から年間13億㎥の淡水が流入していましたが、今では1億㎥にも満たなくなっており、その水も大部分が流出した農業用水と廃水です。
ヨルダン川の水は、イスラエル、シリア、ヨルダン王国が飲用水や農業用水として消費しています。
また死海の南端で、イスラエルのDead Sea Works社とヨルダンのArab Potash Company社が、カリウムやマグネシウムを抽出する目的でミネラルに富む水を蒸発させていることも問題視されています。
死海の水が消えたあとに残る、堆積物がむき出しになった土地は、あまりに塩分が多くて生える植物もほとんどない不毛の地になっています。
かつては、死海の岸沿いに淡水の湧水がオアシスを作り、ヤシの木やその他の植物が育っていましたが、湧水の出口は、現在の岸に沿った泥質地帯に移動してしまいました。
環境問題の専門家たちは、オアシスの減少が、サハラ砂漠を横断する前にこの地にとどまり体力を蓄える渡り鳥たちに悪影響を及ぼすことを懸念しています。
また淡水の浸入によって堆積物の塩の層が溶かされ、地面に大きな穴があくというシンクホール現象がおよそ3000箇所も発生し、道路や橋が被害を受けています。
以前に、当ブログで、消え行くアラル海やチャド湖のことを紹介しましたが、死海が完全に消えてしまうことはおそらくないと思われます。
もともと水深が400m以上あるらしい上に、表面積が小さくなれば塩分濃度が高まって蒸発が遅くなることも考えられるためです。
しかしこのままでは、死海の水面は現在の標高マイナス423mからさらに100~150m下がるかも知れないと言われています。

(4)紅海から死海への導水路計画
何らかの対策を取らなければ、死海は縮小を続けるだろうと思われます。
世界銀行は、180kmに及ぶ導水路を建設して死海を復活させるという案を検討しています。
紅海の海水を、水路や配管路によって、水面が400m低い死海まで運ぶ計画です。
さらに水力発電を行って脱塩プラントを動かし、周辺住民に飲用水を供給します。
この計画では、生産量は、現在のイスラエルでの飲用水消費量の半分近い、年間8億5千万㎥にもなると推定されています。
紅海から死海への導水路計画は1664年から存在し、似たような計画が復活しては消えてゆくことの繰り返しだったのですが、とくに1973年のエネルギー危機後には、イスラエルが紅海ではなく、地中海と死海をつなぐ水路での水力発電所建設を構想していました。
紅海から死海への導水路計画は、主にヨルダンの慢性的な飲用水不足が理由ですが、これに加えて、イスラエルとヨルダンとパレスチナ自治政府が協力して「平和の導水路」を建設したいとの要望もあります。
3つの政府は共通の目的のもとに計画を立案し、2005年に実現可能性と環境への影響についての調査を世界銀行に依頼しました。
但し、建設に数十億ドルを要するこの計画は、環境には良くないみたいです。
取水管は、紅海のアカバ湾から最高で年間20億㎥の水を取り込みますが、それは紅海のおよそ1000種におよぶ魚類や、サンゴ礁をつくる110種のサンゴに未知の悪影響を及ぼしかねないと言われています。
そして導水路は、希少なガゼルやハイラックス(イワダヌキ)、ノウサギの生息地であるアラバ渓谷を通り、アラバ渓谷はまた地震の多い場所であり、導水路が破損する危険性も高いと想定されます。
このような想定に基づき、費用がかさむだけでなく、環境破壊が予測されるこの計画は不要であり、イスラエルとヨルダンは水源保護によりヨルダン川の水量を回復させるべきだと主張している人たちもいます。

(5)パレスチナとイスラエルの協力
生態系にさらなるダメージを与える危険性を別にすれば、導水路は、ヨルダン王国にとって福音となる可能性があります。
ヨルダンは世界で最も淡水資源に乏しい国のひとつです。
ペルシア湾岸諸国はもっと水に乏しいのですが、産出する石油を使って発電し、海水脱塩を行うことができますが、ヨルダンには水だけでなく石油もありません。
紅海から死海への導水路の脱塩プラントは、ヨルダンが渇望している飲用水を供給してくれます。
そして、脱塩プラントが出来れば、パレスチナの人たちにも上水を供給できるようになるかも知れません。
現在でのパレスチナの水源は、ヨルダン川西岸地区(その一部は死海に接している)の地下にある山地地下水層と、海水と汚水でひどく汚染された海岸滞水層に限られています。
パレスチナ人は、1967年以降、ヨルダン川流域を利用することができず、死海の北西岸を開発することも許されていません。
紅海から死海への導水路計画で、パレスチナとイスラエルが協力することは、国際協力の足がかりであり、大きな業績です。
イスラエルは使用する水のおよそ3分の1をガリラヤ湖から取水し、残りのほとんどを地下水層に頼っています。
さらに、年間およそ1億6500万㎥の海水およびかん水を脱塩処理しており、これは国の年間消費量である18億㎥のおよそ9%に相当します。

(6)導水路建設の援助金
2008年に、米国、フランス、スウェーデンを含む8カ国から1670万米ドルの援助金が与えられたことで、世界銀行は紅海から死海への導水路建設の実現可能性と、社会や環境への影響について、調査計画を開始しました。
18ヶ月にわたって発表されてきた中間報告において、導水路の最適ルート(最有力はヨルダン領を通るルート)、その形態(水路、トンネル、配管路またはそれらの組み合わせ)、紅海の取水口の種類、ポンプ所・脱塩プラント・水力発電所の位置、淡水化された水の配分といった要素が検討されています。

(7)塩分が薄まることによる変化
①ドナリエラの繁茂で赤く変
魚類の生息は確認されてはいませんが、緑藻類のドナリエラ (Dunaliella salina) や古細菌類の高度好塩菌の生息は確認されています。
ドナリエラは、1992年に雨が多く降って湖面が2m上がったときのように、塩分が少し薄まると繁茂しました。
新しい導水路ができれば死海の塩分が薄まり、ドナリエラが繁茂することになるかも知れません。
ドナリエラは真核藻類である緑藻の一種で、代表種の D. salina はシオヒゲムシという和名を持っています。
細胞は単細胞でやや細長い楕円形、先端に二本の等長鞭毛を持っています。
カロテノイドを大量に産生するので、ドナリエラが大発生すると水面がオレンジがかったピンク色に染まります。
このように、塩分濃度の低い水の流入は、死海に藻類の異常発生を引き起こすと考えられますが、ヨルダン川から死海に流れ込むリン酸肥料が加わることでさらにひどくなることが予測されます。
さらに、異常発生したドナリエラを餌として高度好塩性古細菌が増え、先に述べたように、死海が赤く変色するかも知れません。
だけど、それが問題となるかどうかは意見の分かれるところです。
水位が下がるのよりは、赤くなるほうがまだいいとは思います。
②化学的変化で水面が白く変色
また、死海に化学的変化が起こることで、水面が白く変色する可能性も指摘されています。
現在、死海は石膏(硫酸カルシウムの一形態)で過飽和状態になっていますが、それは反応速度があまりに遅すぎてなかなか沈殿しないためです。
しかし紅海の水には死海の10倍の硫酸塩が含まれているため、紅海の水が脱塩プラントから排水されたかん水として死海に送り込まれれば反応が速くなり、石膏が白い結晶となると考えられます。
そして、長い時間がたつうちに、石膏は死海の底に沈むのか、あるいは結晶化して水面近くに漂い続け、死海を乳白色に変えるかも知れません。
水面にできた石膏の薄膜で反射率が増し、蒸発を遅らせることも考えられ、あるいは凝集した石膏が死海の中で光を散乱させ、水温を上昇させて蒸発を早めることになることも考えられます。

(8)導水路計画について
この導水路計画は、いろいろと問題があることは事実ですが、
①パレスチナとイスラエルの協力
②飲料水の確保
を考えると、いい計画だと私は思います。
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